【コンプラ知恵袋】クーリング・オフ妨害で行政処分事例|Compliance(コンプライアンス)

【コンプラ知恵袋】

クーリング・オフ妨害で行政処分事例

近畿経済産業省は特商法違反として令和7年2月7日に電話勧誘を行うM社に業務停止を行いました。

M社は消費者に電話をかけたりSNSを利用して、起業、不動産投資などのノウハウ動画やサポートサービス役務の提供を勧誘していますが、訪問販売や連鎖販売取引と同様に電話勧誘取引にもクーリング・オフが適用されます。

同社は交付書面に不備があるだけでなく、クーリング・オフを申し出た消費者に違約金を請求し、秘密保護契約の締結が契約解除の条件とした事実が、クーリング・オフ申請の妨害であり、特商法違反とみなされました。

 

行政処分の理由となる事実

1.交付書面にクーリング・オフが不記載

交付書面を受領した日から起算して8日を経過するまでは、消費者は役務提供契約の解除を行うことができる旨、及び、契約の解除に関して不実のことを告げたり、又は威迫・困惑によって消費者が契約の解除を行わなかった場合に、クーリング・オフ妨害解消書面を交付する旨を記載していなかった。

解説

特商法は、交付書面に赤枠内に赤字8ポイント以上で「クーリング・オフが書面受領日から8日間できること、及び、クーリング・オフ申し込みに対して不実告知や威迫・困惑によってクーリング・オフを妨害したときはクーリング・オフ妨害解消書面を交付することを記載する義務」を定めています。

M社の交付書面には、クーリング・オフに関する記載がなく、このことはクーリング・オフを妨げる行為とみなされました。この場合、消費者はクーリング・オフ期間を経過してもクーリング・オフすることがきます。

(ヤング・リビングの交付書面には、特商法が要求するクーリング・オフに関する記載事項がすべて記載されています。)

 

2.債務の一部の履行を拒否する行為

①M社営業担当者Xは、令和4年9月頃、M社と役務提供契約を締結した消費者Aが、M社にクーリング・オフする旨を申し出たにもかかわらず、Aに電話等で「わかりました。でも、手数料みたいなものはいただくので。」などと告げるなどし、Aが支払った金銭の全額を返金することを拒み、Aが支払った金銭の返還債務の一部の履行を拒否した。

➁M社営業担当者Yは、令和4年10月頃、M社と役務提供契約を締結した消費者Bが、クーリング・オフする旨を申し出たにもかかわらず、Bに電話等で「全額返金することはできない。」などと告げた上、「今回のご返金金額についてお知らせいたします。」、「決済金額550,000円」、「決済手数料(5.2%):28,600円」、「振込手数料:660円」、「返金金額:550,000-28,600-660=520,740円」などと記載したメッセージを送信するなどし、Bが支払った金銭の全額を返還することを拒み、Bが支払った金銭の返還債務の一部の履行を拒否した。

解説
特商法は消費者がクーリン・グオフを申請した場合、販売事業者は受け取った金額を速やかに全額返金しなければならず、損害賠償金や違約金(手数料、振込手数料など)を一切、消費者に請求することはできないこと、また、消費者は役務(サービス)の対価を支払う必要はないことを定めています。

 

3.守秘義務合意書の提出をクーリング・オフの条件にしたこと
M社営業担当者Yは令和4年10月頃、クーリング・オフを申し出たBに対して、「守秘義務に関するものでお互いを守るためのものになり、みなさん全員にお願いしています。そちらに対してのご案内になります。」、「書面にて返金のお手続きを進めさせていただきます」及び「同じ書面を二部お送りいたしますので、記入・捺印いただき、一部のみご返送お願い致します。」とのメッセージ を送信するなどし、クーリング・オフをするには合意書の締結が必要であるとしたこと、Bが守秘義務等を負うことなどを内容とする合意書の締結を複数回にわたって要求するなど、クーリング・オフについて迷惑を覚えさせるような仕方でこれを妨げた。

(解説)
特商法は「クーリング・オフは所定の期間であれば、何らの理由も必要とせず、かつ無条件に契約を解除できる」と定めています。クーリング・オフ申請に、M社が要求するような合意書面は不要であり、合意書面の提出を強要することがクーリングオフを妨げる行為とみなされました。

 

最後に

特商法で定められるクーリング・オフは消費者が有利となる片面強行制度です。清算にあたっては、販売事業者は受領した金銭を100%返金し、消費者に提供した役務の対価や違約金を一切、請求することはできません。